妊娠中のお母さん、授乳中のお母さん、将来のお母さんへ
本文書は汚染、被ばく等の状況が変化したため 2011/6/1にホーム ページのアーカイブに移動しました。文書内では事故当時の数値が用いられていますが、現状では大きく変化しており2011/6/1現在の状況とは大幅に異 なっていますので取り扱いには十分ご注意ください。
本学会は平成23年3月25日のアナウンスで、微量の放射性物質が付着・混入した飲食物摂取に危険がないことをお伝えいたしました。今回は、現状の放射性物質の量では、妊娠中のお母さんのおなかの中の赤ちゃん、授乳中のお子さん、将来のお母さんにも心配のないことをお伝えいたします。私たち核医学を専門とする医師は、今回の原子力発電所から漏れ出た放射性物質の一つである放射性ヨウ素と全く同じものをお薬として日常的に使用しており、その取扱いに精通しています。ご安心のうえ以下の話をお読みください。
Q1.妊娠中です。おなかの中の赤ちゃんの影響が心配です。
A1.ご心配の必要はありません。
おなかの赤ちゃんに影響がでる放射線量は、国際放射線防護委員会ICRP報告(Pub 84)では 100 mSv(ミリシーベルト)とされています。また、米国産婦人科学会や我が国の産婦人科学会はより安全な50 mSvと規定しています。
お母さんの体に当たった放射線がおなかの中の赤ちゃんにまで到達する放射線と、お母さんの胎盤を通って赤ちゃんの体の中に入った放射性物質の影響の二つを考える必要があります。
まず、避難勧告の出ている30km地域の外に居住されている皆さんが受けている被ばくは、これまで新聞報道などで報告されているように、現在のところ一般の皆さんの年間の上限値とされている1 mSvを遥かに下回る程度ですので、お母さんの体を通り越した放射線でおなかの赤ちゃんに影響が出ることはあり得ません。
次に、お母さんの体内に入った放射性ヨウ素による赤ちゃんの被ばくは、1 Bq(ベクレル)当たり6.8 x 10-8~2.7 x 10-7 mSvです。仮に暫定規制値の300 Bq/kgの放射性ヨウ素が混入した飲料水1リットル を受胎から出産までの280日間毎日飲んだとしても、おなかの赤ちゃんに5.7 x 10-3~23 x 10-3 mSv、つまり最大でも0.02 mSvほどの放射線があたるだけということになります。これは50 mSvと比べ著しく少ない量です。
このように、赤ちゃんに当たるすべての放射線量を足し合わせても、影響がでる値にはなりません。
Q2.母乳を与えています。子供に影響はありませんか?
A2.ご心配の必要はありません。
お子さんで最も問題となる甲状腺の放射線量を計算してみます。仮にお母さんが暫定規制値300 Bq/kgの放射性ヨウ素が混入した飲料水を毎日1リットル飲んで、母乳をお子さんが1年間飲んだとします。多く見積もってお母さんの体に入った放射性ヨウ素のうち25%ほどが母乳中に入ります。お子さんの体に入った放射性ヨウ素は1 Bq当たりお子さんの甲状腺に約4.3 x 10-4 mSvの放射線を当てるとされています。したがって、母乳をすべてお子さんが飲んだとすると、300 x 365 x 0.25 x 4.3 x 10-4 mSv=約12 mSvの放射線が甲状腺にあたることになります。平成23年3月18日のアナウンスでお知らせしたように20 mSv以下では小児に甲状腺癌が増加することはありませんので、現在報告されている放射能の数値は心配するほどではないことがわかります。
Q3.粉ミルクを水道水で調整して飲ませても大丈夫でしょうか。
A3.ご心配の必要はありません。
詳細は平成23年3月25日の本学会アナウンスをご覧ください。
Q4.将来生まれてくる子供に影響が出るのではないかと心配です。
A4.ご心配の必要はありません。
私たちが行っている診療では、甲状腺癌やバセドウ病の患者さんに、放射性ヨウ素をお薬として飲んでいただく放射性ヨウ素内用療法(アイソトープ治療)を受けていただくことがあります。患者さんには、若い方も多く含まれます。どちらの治療も今回の原子力発電所事故で皆さんの体内に入る可能性がある放射性ヨウ素量とは比べものにならないほど大量の放射性ヨウ素を治療に用います。私たちは、自分たちが担当した多くの患者さん達が、元気なお子さんを出産されているのを日々の診療の中で経験しています。
以上のように、現在のところ妊娠中のお母さん、授乳中のお母さん、将来のお母さんを含め、すべての方に影響が生じる事態にはなっておりません。むしろ不安に感じるストレスの方が、おなかの中の赤ちゃん、育児などに影響を与えかねません。心安らかに、過ごされますことを祈念いたします。
平成23年3月28日
改訂:平成23年4月07日
日本核医学会