放射性医薬品の過剰投与について(日本核医学会声明)
放射性医薬品の過剰投与について
平成23年9月1日
日本核医学会 理事長 玉木長良(北海道大学)
平成23年9月1日、甲府市立甲府病院における放射性医薬品過剰投与(以下、本件という)が公表されました。核医学関連の専門家からなる日本核医学会は、医療における放射線の適正な利用を推進し、放射線の医療利用に伴う事故を防止する活動を従来から継続的に行っており、本件はきわめて残念と考えています。当学会は、医療における放射線の適正利用にむけて一層努力することを国民の皆様にお伝えします。
当学会は本件の公表に際し、放射性医薬品の適切な使用を通じて核医学が国民の皆様の医療に貢献していることをお伝えし、本件の調査に協力したことを発表するとともに、以下の様な見解を発表します。
- 今回の被曝は医療被曝であり、福島原発事故に伴う公衆被曝とは全く異なった事例であります。医療被曝は、適切な検査適応にもとづき、承諾の上で行われる被曝で、不特定多数に対する被曝では無いこと、検査による明白な利益があること、が根本的な違いであります。本件は、検査適応については問題がなく、もっと少ない被曝線量で検査が施行できたはずである。すなわち、検査の最適化が不十分であったことが問題であります。過剰投与が長期間にわたり繰り返されたことは、該当医療機関の管理・運営体制の問題と考えられます。
- 公表されたような過剰投与が起きたことはきわめて残念なことであります。このような医療被曝の再発を防ぐためには本件の原因と核医学検査の管理体制について調査が必要と当学会は考え、病院の要請に応じて、調査に協力する専門家を派遣し改善策を提案しました。
- 本件に伴う放射線被曝による急性障害は観察されませんでした。慢性期の障害も現在まで観察されておりません。
- 今回の対象であるTc-99m DMSAシンチグラフィは、膀胱尿管逆流やその他腎奇形に起因する腎盂腎炎において、腎臓の瘢痕化を評価し治療方針決定に役立つ有用な検査と世界的に認められており、これを診療に用いることは適切と考えます。
- 核医学検査およびその他の放射線検査の安全の確保については、日本核医学会は「核医学診療事故防止指針」を作成し広く会員に開示し、安全の確保について注意を喚起してきました。このガイドラインのなかで、管理運用体制のあるべき姿についても記述しております。
- 日本核医学会は「放射性医薬品取り扱いガイドライン」を日本核医学技術学会、日本放射線技師会、日本病院薬剤師会と共同して策定し、 平成23年6月10日に公表し、放射性医薬品の取り扱いについて注意を喚起しております。
- 日本核医学会は会員医師に対して、2008年に「核医学診断ガイドライン2008 核医学専門医による提言・勧告」を刊行・配布し、従来から適正な核医学診断の進め方を提唱してきました。
- 放射性医薬品の副作用事故は日本アイソトープ協会医学・薬学部会放射性医薬品安全性専門委員会主催で毎年アンケート調査され、日本核医学会「核医学」誌に掲載(最新版は第48巻1号、29-41頁、2011年)されています。継続的な調査の結果、現在使用されている放射性医薬品の副作用発生率は100,000件あたり1.1件と極めて少なく、核医学検査は一般的に安全で、本件は極めて例外的であることを、ご理解お願いいたします。
参照