核医学検査、治療は医療の重要な一部門です:日本核医学会からのお願い

 東北地方太平洋沖地震により引き起こされた福島第一原子力発電所の事故とそれによる放射性物質の漏洩、空気・水・土壌の汚染、生物への集積が種々報道され、放射性物質、放射能、放射線への関心や心配、懸念が広がっています。

 一方で、核医学での放射性医薬品の利用とそれがもたらす医学上の利益を「放射性物質」であるとの理由のみで、否定的に評価し本来必要な医療が放棄される事例が学会に報告されています。核医学の振興と普及・新規技術の開発をとおして医療の向上をはかり健康と福祉の向上に寄与することを使命とする日本核医学会は、憂慮すべき事態が起こりつつあると懸念しています。

 核医学の正しい認識をひろめ医療の向上を確保するため、核医学の診療への利用について、皆様に正しい知識を広める必要があると日本核医学会は考え、核医学診療をご紹介します。

核医学診療の安全性

 我が国おいて核医学検査が年間約100万件おこなわれています。放射性医薬品の副作用調査は社団法人日本アイソト-プ協会により定期的に年に1回施行され、第31報まで出版されています(核医学 2010:47: 29-43 )。直近の調査では日本で核医学検査が可能な1,247施設のうち930施設から回答を得、1,063,343検査が調査対象となりました。うち副作用の報告は24例でいずれも軽微で治療を要するものはありませんでした。放射性医薬品以外の機器、検査施行に伴う事故も同様に.1986年以降定期的に調査し、第8報までが出版されています(RADIOISOTOPES 2008;57:437-465.)。この報告において65例の事故が2004-2007年の間に認められましたが、核医学検査に特有な事故はなく、一般の医療行為と比べ危険が高いことはありませんでした。

 注目すべきは、上記2つの調査、および、以前に行われた同じ調査のすべての報告を通じて、放射線の被曝による悪影響や副作用が全く報告されていないことです。核医学検査による放射線被曝は検査により異なりますが、おおむね15ミリシーベルト以下です。この放射線量は人間への影響を検出できないほどの線量であり、核医学検査により得られる利益に比べて十分小さいと核医学関係者は思っています。

 核医学には検査であれ、治療であれ、必ず放射線の利用(被曝)が伴います。他分野での放射線利用と同様、核医学における放射線被曝は、達成可能な限りの少ない放射線量で、放射線利用の利益を最大化する様管理されます。このような管理は、放射線防護の基本理念であるALARA原則(as low as reasonably achievable)に則ったものです。

核医学治療(内用療法、内照射療法)

 バセドウ病や甲状腺癌の治療、骨転移の疼痛緩和治療、特殊な悪性リンパ腫の治療、神経芽細胞腫・悪性褐色細胞腫の治療に利用されています。これらの治療は放射線を放出する医薬品を利用した治療であり、放射線による悪影響が治療の利益をしのぐことが無いように、また、通常の悪性腫瘍の薬物治療の危険を越えないよう、適切に医学的に管理されています。使用に伴う公衆の安全も、特別な病室への入院、外来で行う場合には放射能量の上限の設定、などにより確保されています。このような治療を行う医師もその取扱に必要な知識を持っています。核医学会は講習会、専門医試験の実施と取得後の定期更新、学会主催の教育事業、等を行い正しい知識と技能の普及をはかっています。関連法令の制定、改訂についても、日本核医学会員が行政に広範に協力しています。

 たとえば、放射性ヨウ素内用療法はバセドウ病や分化型甲状腺癌の治療の主要手段です。バセドウ病では1-3 x 108ベクレル(100-300 メガベクレル)程度の放射性ヨウ素(ヨウ素-131)が投与されます。甲状腺癌の治療には1.11-7.4 x 109ベクレル(1,110-7,400メガベクレル)が投与されます。これらの量は福島第一原発から排出された空気や排水濃度とくらべ非常に大きな数値ですが、ご心配は無用です。これらの治療は我が国では1950年以来行われています。世界でも広く行われており、この治療による重い副作用は生じないことが知られています。

 大量の放射性ヨウ素を用いる甲状腺癌の内用療法では、二次発がんの危険はないとする報告と、内用療法を複数回受けるとわずかに二次発がんの懸念があるとする報告が混在しています。しかし、そのわずかな危険性は、タバコやいろいろな発がんに関係する因子の危険性に埋没する程度にすぎません。重要なのは、現在お持ちの癌を治療することによる利益と、ごくわずかに増加するかもしれない二次発がんの危険を比較すると、治療することの利益がはるかに勝っていることです。これは多くの医師・研究者が等しく認めるところです。

 骨転移の疼痛緩和治療にはストロンチウム-89(メタストロン®)が使用されますが、重い副作用の事例はありません。4月13日に、福島第一原子力発電所周辺から放射性ストロンチウムが検出され、それによる健康への影響に関する報道がなされました。この問題となっている放射性物質はストロンチウム-90であり、治療に用いられるストロンチウム-89とは異なるものです。治療予定の方におかれましては、本治療に対するご懸念の必要はありません。なお、現在環境中に検出されているストロンチウム-90は、健康に影響がでる量ではないことをあわせ申し添えさせていただきます。

 特殊な悪性リンパ腫の治療にはイットリウム-90(ゼヴァリン®)が使用されます。通常の抗がん剤治療で生じることの多い、嘔吐、脱毛などの激しい副作用はみられません。治療に伴って骨髄機能の一時的低下(白血球や血小板の低下、貧血)が生じますが、通常の抗がん剤治療と同じ程度であり、普通は輸血などが必要になることはありません。

核医学検査

 核医学は種々の疾患の診断にも利用されています。我が国で施行件数が多いのは、フッ化デオキシブドウ糖を用いたポジトロン断層撮影(FDG PET)、同じくポジトロン断層・CT複合機撮影(PET/CT)、骨シンチグラフィ、心筋血流シンチグラフィ、脳血流シンチグラフィです。そのほかにも有用な検査があり施行されています。

 FDG PET、FDG PET/CTは悪性腫瘍の病期診断に主に利用されており、治療方針決定に重要な検査として認知されています。

 骨シンチグラフィは骨疾患の発見にはきわめて感度が高く、1回の検査で全身の評価が出来る点で優れています。悪性腫瘍の骨転移診断がもっとも広く行われますが、その他に疲労骨折などのX線写真では診断しにくい骨折の診断、骨髄炎の診断、等に利用されています。
心筋血流シンチグラフィは心臓の血流を画像として観察可能な検査で、治療方針の決定に大いに役だっています。

核医学の将来

 核医学は今後ますます重要になると考えられます。近年の著しい生命科学の発展により、新薬の開発方法が大きく変更されています。物質の細胞への取り込みや細胞内での変化の異常、これらの異常を起こすタンパク質の異常などが克明に明らかにされ、治療薬をこの知識に基づき設計し合成することが出来るようになりました。自然界から有用な物質を探し出す方法に変わって、今後の薬剤開発の主流になる方法と期待されています。核医学を用いるとこのようにして開発された薬剤が人体内で設計通りの部位に集まっているかを容易、かつ、安全に画像として検討することができます。あるいは、現存の治療薬がある特定の個人に効果があるか否かの予測ができます。この様な核医学の特性は薬剤の開発能率を向上させ、時間と経費の節約に役立ちます。この結果、新しい良薬が早くかつ安価に提供でき、医療の向上に寄与します。

 核医学は未来の医療の重要な推進役です。日本核医学会はこのような核医学の役割を一層広めようとしています。

まとめ

 核医学は放射性医薬品を用いて治療や診断を行う医学の一分野です。核医学での放射線の利用は適切な医学的管理のもとにあり、放射線の悪影響を出来利限り排除し、皆様の医療に確実に役立っています。原発事故による放射性物質汚染と管理された医学利用とは全く異なるものです。皆様の冷静な判断を切に望みます。核医学のもたらす恩恵が確実に医療に利用されるよう、核医学会は今後も努力してまいります。

 検査や治療についてより詳しくお知りになりたい方はパンフレット等(http://www.jsnm.org/data)をご覧ください。

 ご自分の診療に関することは、皆様の受診医に直接おたずねください
 

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